排他主義が跋扈するアメリカ大統領選から感じる〝不穏な空気〟――これは戦争前夜なのか

 

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かつて――。
日本の政治家の立ち位置を、アメリカ(あるいは中国、ロシア)との関係で分類することがあった。親米派、親中派といった具合である。
中田宏はそもそもこうした分類は余りに乱暴すぎると指摘する。
「共和党政権なのか、民主党政権なのかによって対応は変わってくる。共和党ならば外交安全保障については一定の信頼を置いてタッグを組める。ただ、経済に関しては自分たちの価値観を押し付けてくるので対策を練らねばならない。一方、民主党の場合は、外交安全保障においては、日本、そして東アジアの情勢をしっかりと伝えていかなければならない。経済については保護主義的なガードを崩していくことが必要になる」
こうした前提の上に、大統領個人の資質、思想がある。そのため、〝対アメリカ〟と一括りに出来ないと中田は考えている。
そんな中田は今回のアメリカ大統領選をどのように見ているのか――。
「あれっと思ったのは民主党の予備選挙。ヒラリー・クリントン前国務大臣で決まりかと思っていたら、バーニー・サンダース上院議員が出てきた」
アメリカ大統領選挙は今年十一月に行われる。現在、民主党、共和党の二大政党の候補者指名争い――予備選挙が本格化している。二大政党は、米国の各州・領土で選挙戦で行い、大統領選挙に出馬する候補者を選出する。予備選挙は二月に始まり、最大5カ月間続く。民主党の予備選挙で健闘しているバーニー・サンダースは、バーモント州出身の議員で。社会主義者を自認、上院で最もリベラルな議員の一人とされている。
「一月一日配信の中田チャンネル(http://nakada.net/blog/3438)で話しているように、昨年九月にイギリスの野党労働党の党首選挙でジェレミー・コービン氏というこれまで全く名前の知られていなかった人が勝った。彼は根っからの社会主義者。同じ九月にオーストラリアでもアボット首相が自由党内の党首選挙で負けた。十二月にはフランスの地方選挙で極右政党のルペン総裁が率いる国民戦線が得票数を伸ばした。左派、右派という思想的な違いはあれど、今回のバーニー・サンダース氏の健闘も同じ背景が見て取れる。世界のどの国も持つ者と持たざる者の格差、富の偏在がひどくなっており、それに対する鬱憤が溜まってきている」
排他主義である――。
その最たる人間が共和党候補のドナルド・トランプだ。

株式市場大暴落、排他主義、ブロック経済で何が起こったか

中田は「日本の政治家としては、アメリカで民主的に選ばれた大統領と付き合う他の選択肢はない。だから誰を支持すると言う気はない」と前置きした上で、日本との関係という観点から候補たちをこう見ている。
「トランプ氏は今まで言っていたことを本当に実行するとするならば、非常に狭い内向きで一国主義。彼の頭の中に日本の存在はない。共和党のルビオ氏は、尖閣諸島は日本の領土だと明言している唯一の候補者。共和党の主流派、今までの政治の継続という意味で、常識派と言える。クリントン氏は国務長官時代に日本との関係を重視した。尖閣諸島についても日米安全保障条約内だと口にしたことがある。その意味では一定の信頼はあるものの、選挙に勝つために発言が変化している。それが大統領になった後にどう響いてくるか。サンダース氏については全く未知数。トランプ氏とは全く違った意味での一国主義をとるのか、外交国際分野については現実的な方針をとるのか、はっきりしない」
もちろん――。
「現在、アメリカの候補者が話しているのは選挙向けのもの。時にリップサービスが必要なこともある。選挙だから、という発言もある。すべてを真に受ける必要はない」
ただ、誰が選ばれるにしても、対日関係は不透明である。
「予想がつかないのは対日本だけではない。アメリカ国民の政治に対する不信が相当深刻になっている。日本でここ二〇年あったような閉塞感が、アメリカにも広がっているように感じる。それはEUを離脱しようとするイギリスも、難民問題で不満を溜めているドイツも同じ。あるいは中国経済のアドバンテージを活かそうとした台湾も上手くいかずに政権交代した。経済が駄目なので反日政局で支持を得ようとした韓国、そして国民の行動も社会の営みも無理矢理に押さえ込もうとしている中国。世界中で様々な矛盾が噴出して、不穏な空気になっている。そうした空気がアメリカの大統領選挙に表面化している」
不穏な空気――中田が想起しているのは、一九二九年から十年間ほどの世界情勢である。
「一九二九年のウォールストリートの大暴落で世界恐慌が起こった。日本は昭和恐慌。その以前から貧富の差が問題となっていたロシアでは革命が起こった。経済破綻を受けてドイツではナショナリズムが台頭。アメリカはモンロー主義という内向きな政策をとった。そして力のある国はブロック経済化して、一九三九年に戦争が起こった」
中田はこう続ける。
「TTPなどの他国との経済協力関係は、見方によってはブロック経済。現在の各国の内向きな政治状況はどうしても、過去を思いだしてしまう」
日本に限らず、国際社会の中で一国だけで生き残ることはできない。そして、国際社会というのは、国際連盟や国際司法裁判所が善悪を判断して処理してくれることはない。
「つまり正論が通る世界ではない。アメリカ、欧州、中国、どのプレーヤーと組むのかが大事になってくる」
世界中で社会の枠組みががたがたと音を立てて揺れている――その中、日本の舵取りはこれまで以上に難しくなっていくことだけは間違いない。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)