「ホーチミン共産青年団中央執行委員会」から贈呈された盾

「ホーチミン共産青年団中央執行委員会」から贈呈された盾

先月末、中田宏はベトナムを訪れていた。これは昨年九月のフィリピン訪問の〝続篇〟に当たる(フィリピン国会議員団と署名した合意文書については一四年九月の「増刊中田宏」を見て欲しい)。 日本、フィリピン、そしてベトナムの共通点は領海問題を抱えていることだ――。昨年五月七日、ロイター通信はこう報じている。

〈[ハノイ/北京 7日 ロイター] –
南シナ海の領有権をめぐり対立する中国と東南アジア諸国の緊張が高まっている。フィリピンは、南沙諸島(スプラトリー諸島)付近で中国の漁船を拿捕。中国は解放を要請した。
ベトナムは、中国が石油掘削を行っている海域はベトナムの領海と主張し、軍の艦船や警備艇を派遣。これに対し、中国はベトナムに掘削作業の妨害しないよう警告した。
ベトナム外務省は7日、南シナ海で中国の船舶がベトナム船2隻に意図的に衝突してきたと発表した。
外務省によると、衝突は4日に発生。ベトナムの船舶に大きな被害をもたらした。6人が軽傷を負った。
外務省の高官、Tran Duy Hai氏は会見で、「中国の船舶は空からの支援も得て、ベトナム船舶の威嚇を企てた。放水砲が使用された」と述べた。
ベトナム海軍関係者は「銃音は聞いていない。中国側が発砲してこない限り、われわれが発砲することはない」と話した。
ベトナムは南シナ海での中国の掘削活動に対して強く抗議しており、中国海洋石油(CNOOC)に対して掘削設備の撤去を求めている〉

昨年九月の「増刊・中田宏」で書いたように、同様の問題を抱えるフィリピンの国会議員の危機感は強く、中田たちに安全保障条約の締結まで提案してきた程だ。しかし、ベトナムの場合は事情が大きく異なっていたと中田は言う。
「ベトナムは当事国ではあるが、日本やフィリピンとは全く違う。共産党一党支配ということで、議員が独自に考え、発言し、行動することが難しい。基本的には共産党の意向が全て。政府の意向の下に議員が存在している」
肝心の政府の意向も複雑である。
「ベトナムは日本やフィリピンと違って、自由主義陣営ではない。共産党体制であるが故に、同じ体制の中国と距離が非常に近い。中国に対して主権を守らなければならないという意識は明確にある。しかし、中国の顔色を見ながらでなければ、なかなかものを決められないというのも事実」
今回、中田は、政府、共産党、外交の研究者らと会った。しかし、意見を交換したこと自体を公表できない人もいた。

外交は人脈である。一度の訪問で話は進まない。だからこそ、継続が大切なのだ。

昨年、中田はフィリピン訪問の後、事務局長として「国際法に基づくアジアの海洋の安全のための議員連盟」(国際海洋議連)を立ち上げている。
「我々が主張してきたのは、領海についての問題は国際法に基づいて解決を図っていくこと。力による一方的な現状変更は許されないということ。ベトナムの識者たちも日本の考えに賛成。しかし、それを表だって言えない」
日本政府はベトナムのコーストガード(日本の海上保安庁)に中古の海洋保安船を一隻供与している。
「この供与についてみな口を揃えて、非常に感謝していた。ただ、中国に領海をどんどん侵食されているのが現状。領海を守る船舶の数も少なく、そもそもコーストガードが何を任務とするのか明確な概念もまだまだだと指摘する方もいた」
外交は人脈である。一度の訪問で話が前に進むとは中田も思っていない。特に、ベトナムのような国では、本音で意見交換ができるようになるまで何度も顔を合わせることが大切だと中田は信じている。
しかし、国会議員でなくなった中田がどうしてわざわざベトナムに赴いたのか。
選挙において、外交は票にならないといわれる――。
かつての自民党の地方出身の議員のような地元への利益誘導、あるいは労働組合出身の議員のような母体組織の利益となる策を唱えること――これは直接、票になる。しかし、外交は感情に訴えることはあっても、直接の利益に繋がらない。そのため、国政を任された国会議員が注力しなければならない案件であるにも関わらず、後回しにされてきた。
先日、中田は次世代の党からの離党を明らかにした。衆議院選挙で落選し国会議員でもなく、党にも所属していない。〝前〟衆議院議員という、弱い立場と言ってもいい。
だからこそ、自分は国会議員ができないことをやるのだ、と中田は声を強くする。
「衆議院議員時代は、国会対策委員長をやっていたこともあり、国会会期中は全く時間がなかった。当然、幹部として、党の方針に気を遣わなくてはならない面もあった。国会議員のバッジを外し、そして離党した今、自分は自由な立場で、本当に日本のためになることをやり続けていきたい」
その手始めの行動が今回のベトナム訪問であったのだ――。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)