B30dyVuCMAA2LlW

第四十七回衆議院選挙公示日、十二月二日午前中――。
東急田園都市線高津駅に近い、真新しいのビル三階にある中田宏の選挙事務所では、三十人ほどのボランティアが長机に座って、証紙貼りに精を出していた。
今回の選挙、中田は神奈川十八区から出馬している。
選挙活動と言えば、候補者が街宣車、あるいは街角に立って演説する図を思い浮かべるかもしれない。しかし、選挙というのは、新たな人間が容易に入ってこれないように障壁をわざわざ作っているのではないかと疑いたくなるほど、煩雑な作業が山のようにある。
公職選挙法では衆院選では、指定された掲示板以外の千枚のポスター、配布するビラに証紙を貼らなければならないなどと規定されている。
これはポスターやビラの枚数を管理し、公平を期すという考えかもしれない。ただ、千枚ものポスターに一枚、一枚証紙を貼っていくのはかなりの手間になる。その手伝いをしてくれるボランティアを集めなければならない。
選挙をまともに戦うには「組織」が不可欠である。そのため、親族が作った組織を引き継ぐことのできる世襲議員、あるいは労働組合などを背景とした議員が多くなる。
そして、こうした他人から引き継いだ組織、あるいは利害関係の色が濃い組織の支持は政治家の自由を奪うことになる。
中田は、前回の衆議院選挙は比例区で当選した。そのため、神奈川十八区では、〝新人〟である。そして、「組織」は一から新たに作ることになった。
「ポスターを貼ってもらうための場所探しをボランティアの方にお願いしていますよ」
ボランティアが一日掛けて回って、ポスターを貼ってもらえるのは、一、二枚に過ぎない。
街角には自民党、あるいは公明党、共産党などのポスターが溢れている。これらはすべて支持者がいる=組織があるから出来ることなのだ。ただ、こうした手間により、地元の人に自分が出馬していると知ってもらえるものだと中田は前向きにとらえている。

景気が悪いから消費税を先送りする、ではない。物には順番がある。

とはいえ、この選挙区は縁もある。
中田が横浜市長に立候補する前、彼にとって衆議院二期目となる一九九六年総選挙で中田は『神奈川八区」から立候補し当選している。この神奈川八区は、横浜市青葉区と川崎市宮前区を区域としていた。
今回の「神奈川十八区」には、旧「神奈川八区」の川崎市宮前区の他、高津区、中原区の一部が含まれている。かつて宮前区で受けたあたたかい対応が、神奈川十八区を選ぶ決め手となった。
今年十月、小渕優子前経済産業相の政治資金の問題が起こったとき、中田は総選挙になるだろうと覚悟を決めた。そして解散後、一気に動き出した。
今回の選挙は、消費税増税の先送りが争点となっている。
「景気が悪いから増税を先送りにする。あるいは景気が良いから増税するというのは、話が違う。物には順番がある」
中田には横浜市長時代の経験がある。
このコラムを読んでおられる方はご存じのように、彼が横浜市長に就任したとき、横浜市の財政は破綻寸前だった。
表面上の借金は約二兆円。しかし、調べて見ると、二兆円どころか、約六兆二千億円という巨額な借金があった。
「まず私がやったのは自分の給料、ボーナスを削ること。二十パーセント、三十パーセント、一番多いときで四十パーセント削った。その次に手をつけたのが市役所の改革。不透明な手当、退職金を見直し、職員の数を減らした。そして最後に市民への協力を求めた」
つまり、バスの赤字路線の見直し、敬老パスの一律支給の廃止、ゴミの仕分け、市営施設の一部有料化――。
中田はこうした改革を「政治家はやりたがらない、貧乏くじ。でも、誰かがやらなければならなかった」と振り返る。
そして中田の在任中、横浜市は約一兆円の債務を減らした。
「日本の財政が悪いこと、そしてこのままでは高齢化社会に対応できないことも、みんなが分かっている。だからまずやるべきことはトップである国会議員が身を削ること。国会議員の給与を削り、定数を削減する。次に地方分権を進め、二重行政で無駄になっている、国家公務員の数を減らす。その上で国民に負担を求めるべき」
「日本維新の会」、そして分党後の「次世代の党」で中田は身を切る改革を提言してきた。ただ、中田が衆議院に復帰してからたった二年。こうした改革には時間が必要だ。
公示日の夕方、中田は武蔵新城の駅前でマイクを握っていた。
「私に日本の財政を建て直させてください。(現政権に対する)批判を言っているのでもなく、嫌味を言っているのもない。精神論でもない。自分が横浜市でやってきたことを国政でもやる。国政の檀上に立たせて頂きたい」
そして、「これから先も嫌がられても言わなければならないことは言う覚悟、自分が行動する勇気を持って臨んで参りたい」と結んだ。
新聞等の調査によると、神奈川十八区は中田を含めて、本命なき混戦だという。中田とスタッフの地道な選挙運動は十三日土曜日まで続く――。

□□□□□□□□□□
構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)