2014-10-30_15-24-09

 先週金曜日、七日の午後に行われた厚生労働委員会は少々、異様な光景だった。
 この日の午前中に行われていた、労働者派遣法改正案(以下、派遣法)の審議から全ての野党が退席した。滅多に審議を欠席することのない共産党の議員もだ。午後、安倍晋三総理が出席し、委員会で質疑応答が予定されていたが、野党の議員は誰も現れず、総理が待ちぼうけを食らわされたような光景だった。
 この欠席について中田宏はこう説明する。
「あの委員会を見て、一国の総理大臣が出席しているのに、野党が審議に立たないというのは失礼だと感じた人もいるだろう。しかし、今回は総理が出てくるからこそ、審議に応じられないという状況になった」
 これまで中田が何度も説明してきたように、旧維新の会、そしてその流れを引き継ぐ次世代の党は、国会運営において「是々非々」を貫いてきた。つまり、賛成できる与党案には賛成、そうでないものには反対――至極当たり前のことだ。しかし、今も昔も、国会ではこの当たり前の判断が行われてこなかった。
 簡単に言えば、政府の出す法案に反対の姿勢で対立構図を作ることで、野党は存在意義を見出してきた。それは現在の民主党はもちろん、自民党が野党になったときも変わらなかった。
もう一つ、次世代の党として、また中田が国対委員長として重視している原則がある。それは、審議拒否などの日程闘争ではなく、審議を通じた政策論争をするということだ。
 次世代の党(維新の党やみんなの党も)は、派遣法改正案に基本的に賛成の方針を打ち出している。しかし、敢えて審議拒否という道を選ぶことになった。
 これには少々説明が必要だろう。
 一般的には余り知られていないが「重要広範」という国会用語がある。
 これは、与野党が国会の度に話し合い、慎重に審議しなければならないと決めた法案を指す。
 過去五年間で内閣から提出された法案は三八五、そのうち重要広範は三九。約一〇パーセントである。
 今回の臨時国会では二本の法案を重要広範に指定しており、この派遣法改正案はその一本だった。
 重要広範以外の法案の六五パーセントは一日の審議で採決に至ることが多い。短いものでは一、二時間の審議で済ませるものもある。
 一方、重要広範に指定された法案の場合、まず総理大臣出席の本会議で、法案の趣旨説明から始まる。その後、平均約三十時間(一日の審議は約七時間、四日間~五日間に当たる)の委員会審議を積み重ね、公聴会の開催、参考人質疑が行われることもある。そして、審議の最終盤に総理大臣が委員会に出席し、総括的な質疑を行い、採決をとるというプロセスを踏んでいる。
ところが――。「この派遣法の審議が始まったのは十一月六日。⒎時間の審議を終えたその直後に、与党は総理入り審議を行うと提案してきた。まだ総理が出る段階ではないのに。それでも、総理入りで委員会を強行したい目的ははっきりしている。来週、法案を採決するため、総理出席の審議を終えてしまいたかったのだ。つまり採決の条件を整えるためのアリバイ作りということ」
 明らかな国会軽視である。
「元々この法案について、審議に入る前から与党のよる修整案が出された。与党側の法案に対して、審議する前から修正を言い出すのなら、出し直すのが当然のこと。重要広範に指定されていたにもかかわらず、不備だらけの審議だった」

小渕の一件は議員辞職に値する。しかし、その追求を経済産業委員会でやるべきだったのか

 与党が総理入りの委員会開催を急いだのは、今週、安倍総理がAPECへ出席するため、不在となるからだ。
 当然、APECの開催日程は国会審議に織り込み済みだった。どうしてここまでずれ込んでしまったのか――。
 それは小渕優子、松島みどり両前大臣の〝金〟を巡る問題だ。
 小渕、松島両大臣を勇ましく、問い詰める野党議員の姿を多くの人はテレビや報道でご覧になったことだろう。
 問題なのはあの追求の場が、小渕の場合は経済産業委員会、そして松島の場合は法務委員会――本来、法案を審議すべき場所であったことだ。
「小渕議員の一件などは、議員辞職に値する大問題。ただ、その追及を経済産業委員会で延々とやるべきなのか。こうした問題で審議が止まるのは国民にとってマイナス。政治倫理審査会という国会に常設されている機関がある。そちらで議員が弁明すればいい。金の問題は委員会で審議すべき議題とは別物。中身のある審議をするために、議論の場を切り分けるべきだと次世代の党は主張した」
 政治倫理審査会は、疑惑を受けた本人が申し出たとき、あるいは審査会の委員(二五人)の三分の一以上が申し立て、出席委員の過半数の賛成を得られたときに開かれる。
 過去には加藤紘一(九六年)、山崎拓(九八年)、田中真紀子(二〇〇二年)など、本人の申し出により八回開催されている。二〇〇九年には、鳩山由紀夫の個人献金偽装問題に対して、自民党と公明党の賛成多数でら委員会が開催された。しかし、鳩山は出席義務がないと姿を現さなかった。逃亡である。
 次世代の党の主張に対して、
「政治倫理審査会がどういうものか分かりませんので」と小渕は返した。
 その後、小渕は大臣辞任、宮沢洋一が新大臣となった。委員会は新大臣の所信表明演説からやり直し、である。ところが今度は宮沢大臣に「SMバー」の領収書が発覚。またもや委員会は止まった――。
 こうした委員会審議の遅れが、派遣法という重要広範の審議へのしわ寄せとなったのだ。
 中田は今回の〝問題〟をこう見ている。
「今回、自民党は、党として政治倫理審査会で主張することを勧告、本人が望まなくとも党の方針として審査会を開催すればよかった。しかし、審査会で論議されれば、それが報道される。また、さらに新たな問題が出て来て、火が広がるかもしれない。それよりも大臣を辞めることで問題を幕引きした方がいいという判断をしたのだろう。また、何か起こったときに、政治倫理審査会を開くという前例を作りたくないという思惑もあったかもしれない」
 この背景には、法案の中身は吟味せず、多くの本数が成立すれば「与党のペース」、不成立、あるいはスキャンダルで大臣を引きずり下ろせば「野党の手柄」と報じてきた新聞、テレビといったメディアの価値観もある。
 法案を審議すべき委員会で、野党はスキャンダルを追求する必要はあったのか。疑惑を指摘された大臣は自ら進んで政治倫理審査会に出るべきではなかったのか。国民が「永田町の常識」を疑わなければ、この国は良くならない。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)