2014-09-11_10-17-13

 先月十一日から二日間、中田宏は次世代の党の国会議員たちとハワイを訪れた。

 ハワイで中田が是非訪れたいと考えていたのは、故・ダニエル・イノウエ氏の墓だ。

 イノウエ氏は一九二四年にハワイで生まれた日系二世である。

 ハワイ大学在学中に、アメリカ軍に志願し、日系人部隊第四四二連隊戦闘団に配属された。当時、日本は敵国であり、日系人は敵性国民とされた。日系人たちはアメリカへの忠誠を見せるために、欧州での最も苛烈な戦線に投入されることになった。事実、イノウエ氏はドイツ軍との戦闘で右腕を失っている。

 戦後の一九五四年にハワイ議会の議員、五九年には民主党からハワイ州選出の連邦下院議員に当選した。初めての日系人議員である。六三年には上院議員となり、二〇一〇年から一二年に掛けて、上院議員仮議長も勤めた。これは大統領継承順位で、副大統領、下院議長に続く三番目の要職に当たる。

 イノウエ氏の墓は、オアフ島の国立太平洋記念墓地にある。約四七万平方メートルもある広大なクレーター状の墓地は、フルーツパンチを入れる器に似ていることから、パンチボウルとも呼ばれている。

「慰霊塔の真ん中の一等地に、ダニエル・イノウエさんたち日系人の墓があった。四四二部隊の活躍を含め、ハワイの基礎を築いたのは日系人だということで最もいい場所が与えられたのだという。中でも、イノウエさんはアメリカに対する貢献度が高く、別の場所に墓を作るという話があったようだが、仲間と一緒に眠りたいという本人の意思でここに埋葬されたと聞いた」

 日米関係に最後まで心を砕いた先達を思いながら、中田は墓前で手を合わせた(イノウエ氏との付き合いについては、彼が逝去した際のブログその1を参照して欲しい)。

 ハワイでは、ジョン・A・トゥーラン海兵隊太平洋司令官とも会談した。

 トゥーラン司令官は次世代の党の議員に対する挨拶で、

「米国としてもゲストとして日本に駐留していることは承知している」

 と前置きした上で、在日米軍は米国と日本相互の利益の為であると強調した。そして最後には「ゲストとしての立場を忘れない」とも付け加えた。

 十一月の沖縄県知事選挙を前に、非常に抑えた表現だと中田は感じた。

 今回の沖縄県知事選挙で、米軍普天間基地の辺野古移転が争点になっているからだ。

 

基地の有無は国政選挙で問うべき。その上で首長は県民のために何をすべきなのか。

 

 沖縄の基地問題は一筋縄ではいかない。

 在日米軍の起こしてきた事件、日本本土と沖縄の歴史的関係、沖縄人独特の強い郷土愛、民主党政権時代の迷走、そして補助金を始めとした基地を巡る利権――。

 例えば、沖縄人の母親を持つ、作家の佐藤優は、基地問題について自著でやや分裂した感情を書き綴っている。

〈国際関係の専門家として、国家を主語に日米安全保障体制について考えるならば、いかにして効率的な防衛体制を整えるかという発想になる。しかし、国家以外の主語で、一人の知識人、一人のキリスト教徒、あるいは沖縄の血が流れているという自己意識をもつ一人の日本人という視座から、日米関係について考えると、国家を主語にしたときとは別の結論がでてくる〉(『佐藤優の沖縄評論』)

 こうした感情的背景を踏まえた上で、中田は敢えて原則論を唱える。

「国家の安全保障の政策判断と遂行は、一重に国家の専権事項であり、県知事選の争点となり得るものではない。もちろん、可能な限り、当該自治体の協力と理解をとりつけることが望ましいという前提条件はつくが」

 横浜市長時代、中田も基地問題と対峙した過去がある。

 横浜市には五百ヘクタール以上の米軍基地があり、神奈川県は沖縄県に次ぐ二の〝基地県〟だった。

「二〇〇三年の日米合意により、横浜市の米軍接収地に米軍住宅を八百戸作るという打診が為された。これは国と国の話し合いによるもの。防衛政策、横浜市民への説明も国の責任。基地の必要性、効果について首長は口を挟むべきではない。ただし、市民の安全については首長として国に意見を言うべきだというスタンスを貫いた。景観等への影響も考えて、建設戸数を八百戸から七百戸へと減らした上で、米軍住宅を受け入れた。そしてこの交渉の経緯で出来た米軍とのパイプを使い、横浜市内に残る米軍接収地の返還を求めた。横浜市には多くの未使用の接収地が存在した。人間は一度手に入れたものは使用していなくとも、返さないものだ。交渉の結果、横浜地区の七割以上の返還合意に結びつけた」

 現在も横浜市では接収地返還が進んでいる。

 そうした経験の上で、来月の沖縄県知事選を中田はこう結論づける。

「基地の有無については、国政選挙で問うべき。地方の首長がやるべきなのは、沖縄県をいかに安全な場所にしていくのか国と交渉すること。論点を整理しなければ、建設的な方向に進んでいかない」

 もっとも国政選挙では、沖縄の人々の感情を反映することは難しいだろう――。

 ただ、中田のしたたかな経験と原則論は、もつれに、もつれた基地問題の糸を解きほぐす一助にはなるだろう。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)