消費税増税延期の裏側にある「消えた国会議員定数削減」と「自民党政権の限界」

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政治とは故意的な「忘却」が許され、「すり替え」が推奨されている世界といえる――。

六月一日、安倍晋三首相は、通常国会の閉幕後、記者会見の席で、消費税率の一〇パーセントへの引き上げ時期を二〇一九年十月まで二年半延期すると表明した。
この発表に驚きはなかったと中田宏は解説する。
「伊勢志摩サミットの勉強会として、三月から七回に渡り、国際金融経済分析会合が開かれていた。この会合で重要視されたのは〝議事要旨〟を公開すること。消費税をこの時期にあげることは、日本経済、世界経済にとってプラスではないという内容だった。サミットではこの経済認識で各国と合意し、消費税増税を延期する予定だった。いわば増税を延期するための手順を踏んでいたことになる」
報道されているように、サミットでは安倍首相は「世界経済はリーマン・ショック前に似ている」という表現を使ったが、各国首脳の同意は得られなかった。
中田は消費税増税延期は、やむをえない判断だと理解している。
「国内消費が全く戻っていない。消費税増税となれば、直前に駆け込み需要がある。しかし、今は8%にした時の駆け込み需要前よりも低い状態。加えて、日本だけでなく世界経済が不安定なことは間違いない」
消費税増税を決めたのは、二〇一二年六月、民主党の野田佳彦が首相だった時代である。野田は野党だった自民、公明の三党合意で、消費税増税法を成立させた(当時の状況、判断については以前の「増刊中田宏」を参照)。
「あのとき、野田さんには、増え続ける社会保障の財源を考えれば、消費税を上げるという判断しかなかった。与党、野党もなく、国のためということで自公の賛成をとりつけた。そのとき、忘れられがちではあるが、国民にだけ負担を強いるのではなく、我々国会議員も身を切るべきだと、五十議席レベルの定数削減がセットになっていた」
ところが、この国会議員定数の削減は、今回ほぼ無視されている。
「定数削減の話は、選挙区改革になってしまった。これは本来、似て非なるもの。そちらに目先が移ってしまった」
つまり、すり替えである。
三党合意には法的拘束力はない。しかし、公党の代表が約束したものである。現在、政権与党としては、実現に誠意を見せるべきであるはずだろう。

本物の改革は痛みが伴うものである。第一、第二の矢は単に将来につけを回しているだけ。

中田は消費税増税の延期を全面的に支持しているわけではない。
「これまで何度も言い続けてきたことではあるが、アベノミクスは金融政策に頼りすぎ。
金融緩和は当面の時間稼ぎの策にはなる。財政出動も同じ。時間稼ぎと称したのは、これらの策は必ず副作用があるから。本当に重要なのは、中長期的に日本の底力を上げていくこと。アベノミクスの三本目の矢である、成長戦略が重要だった」
アベノミクスの三本の矢とは、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」である。
三本目の矢については全く成果があがっているとはいえない。
「例えば、農業分野。日本経済はマイナス金利になって、資金を出しやすくなっている。もし農業分野の規制緩和が進んでいれば、非農業の企業はそこにチャンスを見て参入してくるだろう。しかし、TPPまではこぎ着けたが、未だに、現在の農業をどう守るかという議論をやっている。これからは農業がチャンスだという共通認識の下で、農業への新規参入が続々と列をなしているような状況になっていない」
さらに中田はエネルギー分野も例に挙げる。
「自動車の世界では、燃料電池車の実用化が進んできた。同じ財政出動するならば、燃料電池に必要な水素を国内生産するというようなことをやるべき。成功すれば息の長いビジネスモデルになる。水素持久力を上げることが出来れば、エネルギー自給、エネルギー安全保障にも繋がる」
どうしてこの二つが出来ないか。
それは自民党だから、である。
前者の場合は農協、後者は石油業界と自民党は深い関係にある。その自民党をまとめる安倍は手足を縛られた状態だと言ってもいい。
「金融緩和、あるいは財政出動で公共事業というのは、誰に対しても痛みがない。将来の世代に負担をつけ回しているだけ。何かを改革すれば、必ず痛みは伴うものだ。四年前、安倍政権発足時に、本当の第三の矢を放っていれば、今頃、結果は出ており、消費税増税に耐えうる経済になっていたかもしれない」
二年半先送りされた消費税増税の実施は二〇一九年秋となる。しかし、安倍首相の任期は二〇一八年八月までだ。もちろん首相に任期はあってなきようなものだ。二年半後も首相の座にいる可能性はあるが、今の段階では、彼は問題を自分の責任の届かないところへ先送りしたことになる。
二〇一四年、衆議院選挙のとき、自民党のキャッチフレーズは〈景気回復、この道しかない〉というものだった。消費税増税延期は付け焼き刃の施策に過ぎない。痛みを伴った本当の改革という〈この道しかない〉のだが。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)