中田宏が初めて橋下徹と会ったのは、二〇〇五年七月のことである。
横浜市長だった中田は、島田紳助が司会するテレビ番組『行列が出来る法律相談所』のゲストとして呼ばれた。「茶髪の弁護士」として知られるようになっていた橋下は、法律相談に答える弁護士席に座っていた。
『行列が出来る法律相談所』には、普通の番組にある台本のようなものがなく、島田がその場の流れで進行していた。その即興を楽しむようにして、島田と丁々発止のやり取りをしているのが橋下だった。話の流れに乗りながら笑いをとる、芸人顔負けの話術に中田は舌を巻いたという。二人の距離が急速に近づいたのは、二〇〇七年、橋下が大阪府知事就任以降のことだ。その後、首長経験のある中田は橋下の最大理解者であった時期もある。
橋下の府・市政について中田は「平均点以上、八〇点」と評価している。
「前提としてどんなに人格者で人から愛される人間であっても、財政を悪化させた首長をぼくは全く評価しない。橋下さんの場合、彼が掲げた大阪都構想や地下鉄・バス民営化などは実現しなかった。世の中には波風立てず、笑顔を振りまき、人望があるけれど、借金を増やし次の世代に問題を先送りしている知事や市長は山ほどいる。その意味では赤点。しかし、財政に関しては大阪府も大阪市も健全化は進んでいる」
ただし――。中田は最後まで橋下が政治家として何を目標にしていたのか分からなかったと言う。
「ぼくが横浜市長に立候補したとき、二期で財政を建て直すというのが公約だった。その目処が立ったときに市長を辞任した。辞任の理由についてきちんと伝わっていないのは失敗だけど、ある意味でシンプル。橋下さんの場合は、大阪都構想にしても、彼が大阪府知事になったときは公約ではなかった」
国政進出も含めて、走りながら考え、周囲を巻き込んでいく――というのが橋下のスタイルだった。
「継ぎ足し、継ぎ足し、という感じだったから予期せぬ行動、発言が多い。従軍慰安婦に関する発言に代表されるように、何を言うのか、何を考えているのか、橋下さんの行動は彼にしか分からない。ミステリーな部分がある」

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安倍総理が橋下を必要としている理由はたった一つ――「憲法改正」である。

 橋下は市長退任後、「おおさか維新の会」の法律顧問という立場である。彼が本当に政界から完全に身を引くのか、が焦点になる。
「おおさか維新の会としてみれば、積み残した課題は多くあって、本音は彼に辞めてもらっては困る。そこで政治ではなく法律担当という位置付けで顧問として党に残って貰った。これが双方で工夫した知恵だったんだろうと思う。ただ、彼のこれまでの行動を考えれば、引退を言葉通り取ることはできない。橋下さんの頭の中は彼にしか分からない。松井(一郎)さんにしても、復帰するという手形をもらっているわけではないだろう」
もう一つの可能性は〝国政〟である。
「安倍(晋三)さんが橋下さんを巻き込もうとしているのは間違いなく憲法改正があるから。安全保障法制を片付けた安倍さんにしてみれば、どこかの時点で悲願である憲法改正の道筋をつけたい。それには衆参両議院で三分の二以上が必要になる。現時点で、衆議院は自公で三分の二。参議院は公明を加えても過半数。そこに橋下さんたちのおおさか維新が加わって参議院の三分の二が獲れるならば、という考え。ただ、言われているように橋下さんを閣内に取り込むなどのシナリオ、あるいは密約はない。橋下さんも安倍さんの意向は重々分かっており、両者は呼吸を計っている」
憲法改正を口にしてきた橋下にとっても、政界復帰の大義となる。
中田は橋下から憲法改正案を体系的に聞いたことないと明かす。
「ぼくと橋下さんが共通しているのは、道州制の導入、財政健全化などを憲法に入れるということ。一方、自民党の場合は憲法改正案を党として持っている。全てが橋下さんと相容れるわけではない」
具体的に憲法改正を検討すれば、齟齬は生まれることだろう。
もっとも――。
「衆参三分の二が実現して、憲法改正が政治日程に入れば大騒ぎとなり、自民党の草案は実現しないだろう。変えられるのはごくわずか、もしかして一箇所程度かもしれない。例えば、憲法前文、九六条。どこを変えるということよりも、憲法改正という一つの大課題を経験するという一点の目標で、橋下さんが力は合わせることは可能だろう」
はっきりとした目標を口にせず、走りながら考える――これまでの橋下の行動を鑑みれば、政界復帰の可能性は高いと言うべきだろう。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)