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(まさに国際政治の縮図だ)

先月、中田宏はイタリアのミラノ万博を見て回り、こう思ったという。

ミラノ万博は、今年の五月一日から十月三十一日までイタリアのミラノで開かれていた国際博覧会である。
中田がこの万博を訪れることを決めたのは、一か月ほど前のことだった。
「ぼくの親しいレストランなどの飲食関係が日本館に出店していた。彼らから誘いを受けていい機会だと思った」

この万博のテーマは「地球に食料を、生命にエネルギーを(Feeding ThePlanet, Energy For Life)」である。
その中で日本館は「HARMONY, Japan Pavilion, Expo Milano 2015」と銘打っていた。和食が世界文化遺産に選ばれていることもあり、日本の四季を見せながら、豊かな食文化があることを表現したのだ。
「食卓のようなテーブルに坐るとテーブルマットと同じ大きさほどのモニターがあって箸が置いてある。モニターに現れる季節や食材などを箸でタッチしていくと、日本の自然、四季が現れる。最後に自分の選んだ食材の映像がメインディッシュとして出てくる。食欲をそそられてそこから出ると日本料理のレストランがある」
日本らしいきめ細かい、いい演出だと中田は感心した。
この日本館は全てのパビリオンの中で三本の指に入る人気だった。入場までの待ち時間は最長十時間になったこともあったという。
中田はこの日本館だけは関係者の手引きにより、待ち時間なしで見ることが出来た。しかし、それ以外のパビリオンは長い列に並ぶことになった。「遊園地だろうが人気のラーメン屋だろうが、並ぶのは嫌い。しかし中身のあるものを見ようと思うと並ぶしかない」
中田は人生で一番列に並んだと苦笑いする。
日本の他、人気だったのはドイツとカザフスタンだった。「ドイツ館は日本と似ていて、テーマに忠実でハイテクで魅せる。カザフスタンは二〇一七年 にミニ万博を開催するので力を入れていた。内容としては小麦や林檎などの農産物がカザフから広まっていったというもので、水槽にチョウザメが泳いでいたり、3Dの映像があったり」
やはりそうだよなと中田が膝を打ったのは、カザフ館ではソビエトに併合された歴史に触れていたことだ。「カザフはソビエトの侵攻を受けながらも尊厳と独立を守ってきた国だというアピールをしていた」

今後世界は食糧不足になる。自然環境に配慮した上での捕鯨をアピールすべきだった。

万博、つまり国際博覧会とは、複数の国が参加する展示会を指す。これは十八世紀のフランス革命直後のパリの博覧会を嚆矢としている。日本で最もなじみが深 いのは七〇年に大阪の千里丘陵で開かれた「日本万国博覧会」(通称。大阪万博)だろう。この万博は史上最大規模。六四二一万以上の来場者を集め、六四年の東京オリンピックと並んで戦後の日本復興の象徴となった。
「グローバリゼーションが進み、万博の意味、意義はかつてとは変わった。万博に行かなければ体験できないというものはもはやないと言っていい。おおかたの情報は万博に行かなくとも手に入る」

だからこそ、と中田は言葉を強くする。

「万博は国際社会、国際政治と良く似ている。カザフのように自らの国の存在価値、主張を織り込むべき。私は国際会議に何度も参加したことがある。詳しく知らない人は国際会議というのは、秩序があって、互いに他国の代表をおもんばかっているんだろうと想像しているかもしれない。しかし全く違う。それぞれが他国の人の言うことを聞かずに自分たちの主張をしていることが何と多い事か。日本人は周囲との調和を重んじがちなところがある。今 回のミラノ万博の日本館も良く出来ていたが、当たり障りのなかったとも言える」
例として中国館とイラン館をあげる。
「中国館では入る段階で様々な民族の笑顔が展示してあった。少数民族も中国で幸せに暮らしているというアピールだろう。その他、シルクロードにより近隣諸国が繁栄していったという歴史。中国の食品はトレーサビリティがしっかりして安全だという展示もあった。また、イランは笑顔が溢れた民主的な国であり、キリスト教の教会を見せて宗教に関して寛容でもある。科学技術の水準が高く、核開発で懸念されているような危険な国ではないという打ち出し方だった」
また、イラン館ではバレーボールのイラン代表がアメリカにストレート勝ちしたという映像を流していた。もちろん、アメリカに屈しないというメッセージだ。
中田はこうした二国のいわば〝国威発揚型〟に振り切る必要はないが、少なくとも食の祭典で日本が主張すべきことはあったと考えている。

それは捕鯨である。
「増刊・中田宏で」は過去にも捕鯨について触れてきた(詳しくはこちらを参照して欲しい)
https://nakada.net/old/week/7599.html

「日本は生態系、自然を大事にしながら、捕鯨を貴重な食糧資源として利用してきた。科学的な根拠を元に話をしているのに、反対側は非科学的な理由、かわいそうだという感情的な理由を盾にしている。せっかくの食をテーマにした国際博覧会。捕鯨が古くからの日本の食文化であること、鯨が増え過ぎて生態系が破壊されているという科学的論拠などを知ってもらう絶好の機 会だった。来場してくれた人の何十分の一でも日本の主張を受け止めてくれれば、日本が万博に出展した価値を高められた」

美しくまとめるのもいい。しかし、万博は日本の主義主張を伝えられる貴重な場であったことも事実だ。
主張すべきことは、ためらわず主張する。そうでなければ、国際社会の中でやっていけな い。その意味で中田はもったいなかったと思いながらミラノを後にしたのだ。

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構成・田崎 健太 (ノンフィクション作家 http://www.liberdade.com)